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さらに、酸性雨によって植物が枯れたり、繊維の色が槌色する被害についても言及している。
実際に当時は、工業化の進展とともに、英国のマンチェスター、リバプール、さらにドイツのルール地方などの工場地帯で、大気汚染の被害が目立ち始めていた時期でもあった。
その後、4000人を超える死者を出した19511年のロンドン・スモッグ事件などを契機に、大気汚染の規制や汚染物質を拡散させる超高層煙突が各国で普及して、汚染は好転したかにみえた。
だが、60年代ごろからじわじわ被害を広げていた酸性雨は、70年代から目に見えて拡大し、80年代に入って各地で爆発的に被害が広がり始めた。
この間スウェーデンやノルウェーの南部などでは、自然の異変が続いていた.’1940年代から50年代にかけて、肥料をやらなくても作物の育ちがよくなってきた。
農民は、原因が分からないままに天の恵みとしてこれを喜んでいた。
しかし、60年代に入ると間もなく、湖沼から魚が姿を消し始めた。
同時に、1000年前にバイキングが残した遺跡の石の砦や、古い教会のブロンズ像がボロボロになるなどの建造物の異変が各地で目立ち始めた。
雨はpH7の中性のはずだが、実際には大気中の二酸化炭素が炭酸となって溶け込んでいるので、pH5か6ぐらいの弱酸性だ。
ところが当時、北ヨーロッパ諸国では、トマトジュースなみのpH4から5の雨が降っていたのである。
それは、大気汚染とは縁の薄いはずの遠隔地でも同じだった。
水力発電が主力の北ヨーロッパにこれら汚染物質の排出源はなかった。
スウェーデンの科学者によって、酸性雨のメカニズムが少しずつ解明されていった。
湖沼の酸性度を継続的に測定するとともに、湖底の堆積物中の珪藻を分析して、紀元前一万1500年まで遡って湖水のpHを調べ上げた。
このころから、奇妙な事件が報告され始めた。
最初はスウェーデン西海岸のイエテボリから北に50キロほどの農村リラエデットで、女性の髪が緑色に変わったのだ。
これは人類が初めて経験する広域の大気汚染だった。
この調査の中心となったスウェーデンのS・O博士は1967年に、「酸性雨は、水質、土壌、森林、建造物に今後大きな被害を及ぼす人類にとっての『化学戦』になるだろう」と警告していた。
その後の酸性雨の拡大は、まさに博士の予言通りに進行している。
北ヨーロッパではその後もますます酸性雨の被害が深刻になっている。
60年代の終わりごろから顕在化してきた湖水の酸性化は、1989年のスウェーデン環境省の調査によると、同国の湖面一ヘクタール以上の8万5000の湖沼のうち、2万1500湖に及んでいる。
このうち一万一000湖では魚や水生昆虫などが激減、2000湖では完全に死滅してしまった。
約5000の湖沼にポンプを据えつけて、水に溶かした石灰を定期的に放水するなどの対策をとっている。
スウェーデンが1972年にストックホルムに国連人間環境会議を招致したのは、この酸性雨による湖沼の死滅の実状を世界に訴える狙いもあった。
とくに明るい色をしている。
「その金髪がシラカバの新緑のようにきれいな緑に染まった」と、村人はいう。
その後、各地で同じ事件が相次いだ。
環境省の調査で、ふだん使っている飲料水が原因と判明した。
酸性雨が地中にしみ込んで地下水を汚染し、そこから取水していた水道水も酸性化していた。
それが銅製の水道管を腐食させて、溶け出した銅の化合物が洗髪したときに髪を染めてしまったのだ。
この事件で、酸性雨が地下水までも汚染していたことが明るみに出た。
スウェーデンは人口が散在していることもあって、公共水道網よりも各家庭が井戸に頼る率が高い。
全国に160万を超える井戸があり、約400万人、つまり国民の2人に一人は地下水を水源にしている。
地下水汚染を重く見た政府環境保護委員会は、11年間かけて全国284自治体から一75の地下水を選んで酸性雨汚染の実態を調査した。
この分析を担当した同委員会のウラ・ベルティルス博士によると、そのうちの推定200万人が酸性雨で汚染された水を使っていた。
井戸の多くは4メートルほどしかない浅井戸で、酸性雨汚染をまともに受けていた。
この調査によって、乳幼児の間に蔓延していた原因不明の下痢も、地下水汚染が原因であると断定された。
スウェーデンの水道管は7割までが銅製で残りが亜鉛製だ。
銅製の水道管が酸性水で傷むにつれて、銅が水道水中に溶け出して子供たちの下痢を引き起こしていたのだ。
それまで幼稚園で集団発生していた「食中毒」の原因も、その一帯の地下水の酸性度を分析したことから明らかになった。
政府は、小さな子供のいる家庭から優先的に水道水の漁過装置に補助金を出している。
同じ現象はノルウェーでも起き、鉛管の多い英国では水道水中の鉛分の増大が問題になっている。
土壌中には、カルシウムやマグネシウムなどのアルカリ物質があって酸性水を中和しているが、長期間降り続けると中和が間に合わなくなってきて、地下水も酸性化していく。
酸性化した水が地下に浸透してくると、それまで安定した化合物になっていた水銀、カドミウム、アルミニウム、鉛などの金属が遊離してきて毒性を発揮し始める。
スウェーデンでは、大気汚染に含まれる水銀や酸性化で溶け出した水銀によって、1000を超える湖で魚のカワカマスが一ppm以上の汚染を受け、食用が禁止されている。
最近は、地下水から取水した水道水までも、カドミウム分などが増加して、住民の不安を駆り立てている。
さらに、80年代に入って、被害は森林に移ってきた。
とくに南スウェーデン地方の南部から西部にかけてがひどく、被害面積は森林の39パーセント(88年)に達している。
隣のノルウェーでも、西ドイツやフランスの工業地帯を吹き抜ける南風の通り道に当たっているだけに、影響は深刻だ。
汚染物質は運ばれるにつれて濃縮され、ノルウェー南部の山脈で遮られて、雨や降下物とともに降りそそぐ。
調査した5000の湖のうち、1750で生き物が死滅し、他の900でも激減している。
森林の被害も50パーセントに及び、被害の深刻化しているトブダル川流域では、枯れた林が延々と続いている。
酸性雨は、ノルウェーを突き抜けて北極圏にまで達している。
ノルウェー大気研究所(NILU)は、ノルウェーの北700キロ、北緯80度の北極圏にある同国領スバルバル諸島で、大気汚の観測を続けている。
この島は氷と岩だけでできており、公害には無縁なはずの島々だ。
ところが、雨や雪を分析すると10〜20ppb(1000分の一ppm)の硫酸や硝酸が検出されることが当たり前になっている。
この人里離れた極北の地でも、すでに酸性雨の深刻な被害の出ているノルウェー南部と同じ程度の汚染が進行していたのだ。
森林を回復するため、世界でももっとも厳しいといわれる森林保護法で、100年以上も守り育ててきた。
ところが最近、森林の大部分を占める針葉樹が、風や雪の重みで簡単に折れたり、根こそぎ倒れたりすることが急激に増えてきた。
その被害面積は、森林の43パーセント(88年)にも及んでいる。
それにつれて、雪解け時に雪崩も増えてきた。
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